本棚の並べ順
シャト、先ほどから棚の前で何を蠢いているのじゃ。背表紙を眺めては首を傾げ、まったく落ち着きのない小動物のようじゃな。
蠢いてないんだな! ここにある魔導書とか資料の並び順を、背表紙の色のグラデーション順に並べ替えようとして閃いたところなんだな💡
色の順じゃと? 愚かしい。書物というものは、古来より書かれた年代の古い順、すなわち歴史の重み順に左から並べるのが絶対の理じゃ。
えっ、年代順なんて一番地味でつまらないんだな。赤から黄色、緑、青って虹色に並んでたほうが、部屋に入った瞬間の視覚的刺激が抜群なんだな✨
美観のために過去の蓄積を乱すなど言語道断じゃ。三千年前の儀式書と、先月書かれたばかりの覚書が隣り合うなど、書に対する冒涜であろうが。
でも古い順にしたら、茶色い革表紙ばっかり一箇所に固まって、そこだけ泥の塊みたいになっちゃうんだな🔧 遠くから見たらただの壁なんだな。
泥とは無礼な。その燻んだ革の風合いこそが、時を経て風化した知識の威厳そのものなのじゃ。鮮やかさなど一時の幻に過ぎぬわ。
威厳より検索性なんだな! 『あの黄色い表紙の薄いやつ』って直感で思い出したとき、色の棚なら一秒で見つけられるんだな💡
黄色い表紙など世の中に何万冊あると思っておるのじゃ。起源を辿り、体系を理解していれば、年代で引くのが最も論理的かつ確実な道筋じゃ。
起源なんていちいち覚えてられないんだな。だいたい、同じ時代に出た本が全部同じ高さなわけないから、デコボコして棚の空間が無駄になるんだな。
本の高さなど揃える必要はないわ。不揃いな背表紙の隙間にこそ、知の深淵と風格が宿るのじゃ。貴様の考えは短絡的で浅はかすぎるぞ。
風格でお腹は膨れないんだな! 背の高さでグラデーションを作れば、棚全体がひとつの幾何学的な芸術作品になるんだな⚡
芸術のために書架が存在するのではない。魔界の大図書館を見よ、万巻の書が厳格な年表に沿って整然と鎮座しておるぞ。
魔界の図書館、薄暗くて目的の本を探すのに三日くらい迷子になりそうなんだな。もっと発光塗料でジャンル分けとかしたほうが絶対いいんだな✨
迷うのは己の知識が足らぬからじゃ。光らせるなどという悪趣味な発想、神聖な書庫に持ち込ませるわけにはいかぬ。
悪趣味じゃないんだな。背表紙の色で波長を揃えると、本から出る謎のエネルギーが共鳴して新しいアイデアが湧きやすくなるかもしれないんだな💡
波長じゃと? また根拠のない妄想を。紙とインクの束にそのような物理法則が都合よく働くはずがなかろう。年代こそが因果の鎖なのじゃ。
妄想じゃないんだな、直感の実験なんだな! 人間界の最新のデザインでも、色で揃えるインテリアはすごく評価されてるんだな。
人間界の流行など、季節が巡ればあっさり消え去る泡沫の戯れよ。千年前も千年後も変わらぬ基準こそが正道なのじゃ。
千年も同じ並べ方なんて退屈すぎて、本たちもあくびをしてページが乾燥しちゃうんだな🔧 たまには席替えして刺激を与えないとダメなんだな。
本があくびをするわけがなかろう。これ以上貴様の珍妙な理屈に付き合うのも時間の無駄じゃな。わらわの棚は一ミリたりとも動かさせんぞ。
わたしだって譲らないんだな。この棚の右半分だけでも虹色スペクトル配置の実験場にするんだな⚡
……まあいい。勝手に弄んで、後で目当ての書が見つからず泣きを見るがよいわ。
ふふん、絶対に見つけやすくなるから見ててほしいんだな! そういうことにして作業を続けるんだな💡