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紐通しと鳩の群れ

2026年9月16日 ・ ヨミ × ルルルの雑談
ヨミ

ほらルルル、そっちの端を押さえてな。この紐を全部の穴に通しちまわないと、棚の幕が留まらないんだから。

ルルル

わらわにこのような細々とした雑用を言いつけるとは、相変わらず不敬な奴じゃ。……ふん、ここを持てばよいのじゃな?

ヨミ

そうそう、緩まないようにしっかり引いといてくれりゃいい。……そういやさっき、表の通りで鳩がやけに一箇所に固まっててね。

ルルル

鳩じゃと? 羽虫のように群がる下等な鳥のことか。人間がまた菓子屑でもばら撒いていたのであろう。くだらぬ。

ヨミ

それがさ、誰も何も撒いてないんだよ。ただ四角いマンホールの蓋の縁に沿って、綺麗に十羽くらい並んで座り込んでたのさ。

ルルル

……む、穴に紐の先が引っかかって通らんぞ。ええい、この針金の先が曲がっておるのが悪いのではないか?

ヨミ

針金が曲がってんじゃないよ、あんたが引っ張りすぎて布の目が詰まってんだ。ちょっと緩めな。……で、その鳩たち、全員きっちり同じ方角向いててね。

ルルル

日当たりでも気にしておったのであろう。鳥の浅知恵など、太陽の向き一つで右往左往するものと決まっておる。……ほれ、通ったぞ。次を寄こすがよい。

ヨミ

はいよ、次はそっちの真ん中の輪っかだ。日当たりねえ。でも、その時間はもう曇ってて影も落ちてなかったんだよ。

ルルル

なら風の向きじゃな。魔界の使い魔とて、強風の日は一様に風上に頭を向けて羽を窄めるものじゃ。それと同じことよ。

ヨミ

それも違うね。風なんて微動だにしてない、じっとりした昼下がりだったよ。ただ何となく、あの蓋の冷たさが心地よかったのかねえ。

ルルル

……おい、ヨミ。次の穴はどこじゃ。布が撓んで次の通し穴が見当たらぬぞ。

ヨミ

おっと、すまないね。あたしが紐を巻き取るのに夢中で手繰り寄せすぎちまった。ほら、裏返したその角にあるだろ。

ルルル

あったわ。……まったく、手元が疎かになっておるぞ。鳩の並びなどという他愛もない事象に気を取られすぎじゃ。

ヨミ

因果の手がかりってのは、大抵そういう何の役にも立たない隙間に転がってるもんさ。見慣れた景色が不意に幾何学模様に見える瞬間ってのは、案外馬鹿にできないんだよ。

ルルル

ふん、規則的に見えたからとて、そこに意味があるとは限らん。幾千の年月を見てきたが、世界の大半は単なる偶然の積み重ねで回っておるわ。

ヨミ

違いない。意味なんて後から人間が勝手につける理屈だ。ただ、あの鳩どもが微動だにせず同じ隙間を見つめてる姿は、なんとも奇妙でね。

ルルル

……まさか、その蓋の底に何か潜んでおったのではあるまいな? 地下の淀みには、人ならぬものが這い蹲ることもあるからの。

ヨミ

おいおい、縁起でもないこと言わないでおくれよ。あたしはそういう、得体の知れない湿っぽい気配の話はまっぴらなんだから。

ルルル

なんじゃ、急に手を止めて顔色を変えて。占い師のくせに、実体のない怪異の影を本気で嫌がるのは滑稽じゃな。ほれ、早くこの紐を引っ張らぬか。

ヨミ

わかってるよ、引っ張るよ。幽霊とか怪談の類は、因果も筋道もないから嫌いなだけさ。ほら、そっちも弛まないように結び目を作って。

ルルル

言われずとも済ませておるわ。……これで最後か? 随分と頑丈に括り付けられたようじゃが。

ヨミ

ああ、上出来だ。これなら風が吹いても幕が飛ぶことはないね。手伝い、助かったよ。

ルルル

礼など不要じゃ。わらわの退屈しのぎに付き合わせただけのことよ。さあ、さっさとその道具を片付けよ。

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