蝙蝠の不眠症
本日の格言:逆さまに眠れぬ夜は、落ちる空を眺めよ
ネザーエフエム、666.6メガヘルツ。ETERNARADIO、ルルルさまの暇つぶしの時間じゃ。暦の上では十一月十四日、城の外では冷たい霧が渦を巻いておるな。
オレはさっき厨房の隅で、温かい骨スープの残りを飲んできたところニャ。体がぽかぽかするニャ🐾
浅ましい猫じゃな。わらわの銀の杯に注がれた茶のほうが、はるかに上等な香りを放っておるぞ。冷める前に干さねばならぬがな。
味より温かさが大事ニャ。さて、メインパーソナリティは魔界の姫君ルルルさま、サポートはオレ、白猫のニャモだニャ。
うむ。わらわがこの広大なる退屈の隙間を埋めてやるゆえ、心して聞くがよい。
今日も魔界から、ちょっと困ったお便りが届いてるニャ。
ラジオネーム『鍾乳洞の番人』、魔界の洞窟に棲む蝙蝠からの相談ニャ。『ルルル姫さま、お聞きください。最近、昼間に天井から逆さまにぶら下がっても、ちっとも眠れなくなってしまいました。足の爪ばかりが疲れて、頭に血が上り、夜になると羽が重くて狩りにも出られません。どうすれば昔のように深く眠れるでしょうか』とのことニャ。
なんと情けない。眠れぬなら、ぶら下がるのをやめて地面に転がっておればよかろう。
いや、蝙蝠は地面に落ちると翼を畳んで這い回るしかなくて、めちゃくちゃ無防備になるらしいニャ。
それがどうした。そもそも魔界の蝙蝠が、己の血の巡りごときで弱音を吐くなど言語道断じゃ。逆さにぶら下がるのが生き方の掟であるなら、頭が張り裂けるまでぶら下がっておればよいものを。
でも眠れないのは辛いニャ。寝不足だと獲物の虫も見失うニャ。
こやつはな、『眠ろう』として天井に爪を立てておるから眠れぬのじゃ。 眠りとは、落ちるもの。捕まえにいって捕まるような柔なものではない。
ふむ……言われてみれば、オレも『寝るぞ』って気合を入れたときはあんまり眠れないニャ。気づいたら寝てるニャ。
そうであろう。天井からぶら下がり、己の体重を両足の爪先だけで支えながら『まだ眠れぬか、まだ眠れぬか』などと念じておっては、全身の筋が強張るに決まっておる。無駄な力みじゃ。
じゃあ、どうすればいいニャ? 爪を外したら落っこちるニャ。
落ちればよいではないか。一度したたかに床へ落ちて、鼻先でも打てば目が覚めるか、あるいは気絶して眠れるかの二つに一つじゃ。
乱暴すぎるニャ! 怪我したらどうするニャ😾
洞窟の地面など柔らかい泥と苔ばかりじゃ。それに、天井からぶら下がっているから『上』と『下』を意識してしまうのじゃ。逆さに世界を見ているという気負いがあるから、頭が休まらぬ。
逆さに見てる気負い、か……あいつらにとってはそれが普通なんじゃないかニャ?
普通であるはずの日常を、わざわざ『不調だ』と騒ぎ立てる時点で、己の姿勢を意識しすぎておる証拠じゃ。蝙蝠よ、お前が見ておるのは洞窟の床ではない。お前にとっては、天井こそが大地で、床こそが底知れぬ空なのじゃろう?
おお……確かに、逆さまから見たら、床のほうが落ちていきそうな青天井に見えるかもニャ。
そうじゃ。なら、爪を離せば空へ落ちていくだけのこと。落ちるのが怖くてしがみついておるから、爪が痛み、眠りが逃げるのじゃ。
手放せってことかニャ?
ふむ、手放すというよりは、爪に頼る己の傲慢を捨てよということじゃな。 闇に身を任せるとは、己の重さを世界に委ねることに他ならぬ。ぶら下がっているのではない、世界にお前が吊るされておるのじゃ。
……なんか難しくなってきたけど、要するに『落ちても死なないから力を抜け』ってことニャ?
半分は合っておる。残りの半分は、眠れぬなら無理に眠るなという話じゃ。夜の帳が下りるまで、逆さまの空をただぼんやりと眺めておればよい。洞窟の闇は、何千年もそうやってそこにあるのじゃからな。
じっと見てるうちに、勝手に瞼が重くなるニャ🐾
うむ。逆さに吊るされた己を呪う暇があるなら、逆さまの視界に広がる闇の深さを味わうがよい。眠れぬ夜など、長い生の中のほんの瞬きひとつにすぎん。……まあ、わらわの城の天井に勝手に巣を作ったら、容赦なく火焙りにして叩き落とすがな。
ひどいニャ。でも、番人さんもこれで少しは爪の力を抜けるといいニャ。
今宵はここまでじゃ。次も良き暇つぶしを送ってくるがよいぞ。
またニャ〜🐾