薬草の選別と手入れ
ほら、そっちに寄せてある干した葉、茎から綺麗に毟っておくれ。湿気を含んだ筋が混ざると、保管してる間に全部だめになる。
指図を受ける筋合いはないのじゃがな。まあよい、この程度の作業、魔界の書架の整頓に比べれば造作もないこと。……この乾いた匂いは、悪くない。
香りは上出来さ。朝の露が引いた直後に刈り取ったやつだからね。……そういえば昨日、街の辻で、荷車の車輪が外れて樽が転がっていくのを見かけてね。
樽が転がるなど、よくある詰まらぬ事故ではないか。破裂でもして大騒ぎになったのか? ……む、この葉は少し黒ずんでおるが、これも外すのか?
それは除けておきな。破裂はしなかったよ。ただ、坂の下にあった石積みにぶつかって、見事に底が抜けただけさ。中の林檎が十個ばかり溝に落ちて流れていった。
流れていく果実を眺めていただけか。実につまらぬ光景じゃな。……この茎、妙にしぶといな。ちぎれんぞ。
根元を少し爪で押さえながら引くんだよ。力任せに引っ張ると粉々になる。……面白かったのはそのあとさ。荷車を引いてた男が、転がった林檎を追うでもなく、外れた車輪の軸をただ呆然と撫でていたんだよ。
ふん、現実を受け止めきれぬ愚か者の典型じゃな。失われた果実よりも、壊れた車軸のほうが修繕に金がかかると計算しただけかもしれんがな。
そういう利口な顔つきじゃなかったね。ただ、さっきまで当たり前に動いていた輪っかが、どうして外れたのか因果を探ろうとしてた。原因なんて車軸の留め具の摩耗に決まってるのにさ。
……当然の帰結を不思議がるのは、人間の悪い癖じゃ。摩耗すれば外れる、それだけの道理を忘れておる。ほれ、ここの一束は終わったぞ。次を寄こせ。
手際がいいじゃないか。じゃあその籠のやつを頼むよ。……そういえば、古道具屋の店先に、妙な形の真鍮の匙が並んでいたんだが、あれは何に使うものなんだろうね。
真鍮の匙? 柄の先に丸い輪がついておるやつか? それなら人間界の古い時代の、蝋を溶かして手紙に封をするための道具であろう。そんなものも知らぬのか。
いや、輪っかじゃなくて、平たい板が二枚重なったような形だったよ。あたしもいろんな骨董を見てきたが、あれはどうも用途が見当たらなくてね。
……二枚重なっておる? それは……待て、手を動かしながらだと記憶の引き出しが引っかかるな。なんじゃったか、以前どこかの書物で読んだ気がするのじゃが。
ほら、手が止まってるよ。思い出すのは後でいいから、その黒ずんだ葉を寄せておくれ。乾燥が追いつかないと夜風で湿気る。
わかっておるわ! わらわを急かすでない。……そうじゃ、思い出したぞ。あれは薬剤をすり潰して練る時に、余分な粉をこそぎ落とすための匙じゃ。昔の天秤売りの道具箱に入っておる類のものじゃな。
へえ、こそぎ落とすための道具かい。道理で匙の部分に深みがなかったわけだ。実用一点張りの道具ってのは、用途を知らないと不格好に見えるもんだね。
知恵のない者には用途が見えぬ、それだけのことよ。魔界の武具にも、一見してただの鉄塊に見えて、ある特定の魔力を通すためだけに作られたものがある。……おい、そなたこそ手が止まっておるぞ。そっちの麻袋は縛らんのか。
おっと、いけないね。話しながらだと紐の結び目が緩む。……因果が分かれば形にも納得がいく。あの匙を作った職人も、無駄な細工をしなかっただけ誠実だったってことさ。
誠実かどうかは知らんが、機能に徹した物は無駄な装飾がないぶん、長持ちはする。……この葉の山も、ようやく底が見えてきたな。
助かったよ。これだけあれば、冬の間の煎じ薬には困らない。最後の小枝をまとめて縛ったら、軒下に吊るしてしまいな。
最後まで使役する気満々じゃな。まあよい、この乾いた草の擦れる音は、それほど嫌いではないからの。次の束を持ってまいれ。