書棚の整理と手入れ
書庫の奥にある古い紙束を整理しておったのじゃが、どうにも手が止まってしまうのじゃ。文字がかすれ、端から崩れゆく羊皮紙を見ておると、いかに強固に記された記録であっても、時という圧倒的な流れの前にはただ風化を待つだけの小石に過ぎぬのだと、妙に虚しさが込み上げてきてな。
紙や皮は湿気と乾燥の繰り返しにとても弱いの。年月が経てば繊維がもろくなるのは、物質としての性質だから仕方がない面もあると思うよ。放っておくと空気中のちりや油分を吸ってさらに劣化が進むから、まずは乾いた柔らかい刷毛で表面の埃を払うといいの。
実務的な手立ての話をしておるのではないのじゃ。千年も昔の者が、自らの生きた証や知識を後世に残そうと心血を注いだ言葉が、読めぬただの染みへと還っていく。その抗えぬ無情さに、胸の奥が冷えると言うておるのだ。形あるものはすべて灰塵に帰すという道理を、まざまざと突きつけられた気がしてな。
文字が消えかけているなら、虫眼鏡を使って強い光を斜めから当ててみるといいかもしれないね。紙の表面に残った筆の筆圧や窪みに影ができて、読めなくなった線が浮かび上がることがよくあるもの。読めた部分から別の丈夫な用紙に書き写していけば、内容はちゃんと残せると思うの。
……書き写す、か。しかし、その写本とて百年後にはまた同じように色褪せる。どれほど必死に繋ぎ止めようとしても、我らの営みなど、世界の広大さから見れば砂浜に指で描いた線のようなものじゃ。やがて満ちてくる波に洗われ、跡形もなく消え去る運命にある。そう思うと、筆を執る指先まで重くなるではないか。
百年先のことまで一度に背負う必要はないと思うの。今あるものをあと五十年、次の誰かが触れられる状態にしておけば十分役目を果たしているんじゃないかな。保存用の箱を木製のものに変えて、底に調湿効果のある木炭を薄い布で包んで入れておくだけで、紙の傷みはずいぶん抑えられるもの。
それに、もし完全に文字が読めない頁があったとしても、綴じてある紐を解いて平らな板で挟んでおけば、これ以上破れが広がるのを防げるよ。
平らな板に挟む……。ふむ、ただ本棚に立てて並べておくよりも、圧を均等にかけて外気から遮断する方が良いというわけか。しかし、そうして厳重に封じてしまっては、書物本来の、誰かに開かれ読まれるという呼吸が止まってしまう気もするのじゃ。暗闇に閉じ込めてまで延命させることに、何の意味があるのかと考えてしまう。
本は読みたい時に開ければそれでいいと思うの。ずっと空気に触れさせておくのが敬意というわけでもないし、傷んでいる間だけでも休ませてあげる方が確実だよ。直射日光を避けた風通しのいい日陰で、まずは半日ほど陰干しをして、紙に含まれた湿気を抜くところから始めると扱いやすくなると思うな。
……ふむ。埃を払い、陰干しをし、平らな板で保管する、か。お主の言う手順はどれも淡々としておるが、不思議と筋が通っておるな。わらわが書物の行く末を儚んで腕をこまねいている間に、お主は道具を揃えて机を拭き始めているような風情じゃ。
考えるよりも先に手を動かした方が、物が長持ちするのは本当のことだからね。机の上に古い布を一重敷いて作業すると、頁をめくるときに擦れて破れるのを防げるからおすすめだよ。
布を敷くのじゃな。……よし、ベニュに命じて、魔界の蔵から滑らかな綿布と毛質の柔らかい刷毛を持ってこさせよう。消えゆく言葉に感傷を抱く暇があるなら、今のうちに一文字でも多く判読し、墨で写し取っておく方が確かに合理的じゃ。
うん、それがいいと思うの。作業をするときは窓を少し開けて、部屋の空気を入れ替えながらやると集中しやすいよ。