道具の手入れと整理整頓
引き出しの奥から、昔使ってた振り子が出てきたんだよ。真鍮の鎖がすっかり曇っちまっててさ。あの頃は毎日のように手のひらで転がしてたのに、使わなくなると一瞬でただの真鍮の塊に戻っちまうんだね。
金属は空気中の酸素や手の油分で表面が酸化するからな。真鍮なら目の細かい研磨剤をつけて布で磨けば、すぐ元の輝きに戻るんだな💡
そういう手入れの話じゃなくてさ。どれだけ大事に扱っていた物でも、役目を終えた途端にただの冷たい物質に成り果てる。因果の糸がプツリと切れて、取り残された抜け殻を見てるような寒々しい気分になったのさ。
役目が終わったというより、単に摩擦と振動の機会が減っただけなんだな。振り子は支点と重心の位置関係で動く計測機器だから、紐の長さと重りの比率さえ狂ってなければ、いつでも同じ周期で振れるんだな🔧
振れるかどうかを言ってるんじゃないよ。あたしの指先の熱が乗っかってた道具が、引き出しの暗闇の中で誰の目にも触れず、ただ酸化していくだけの時間を過ごしてたってことが、なんだかひどく無情に思えたんだ。
引き出しの中は密閉されてるように見えて、木の隙間から湿気が入るからな。長期間保管するなら、チャック付きのビニール袋に乾燥剤と一緒に入れて空気を抜いておくのが一番確実なんだな。
……乾燥剤かい。湿気を防げばいいって問題でもないだろうに。時間の重みっていうのは、そういう保存袋の外側に澱のように溜まっていくものなんじゃないのかい。
澱の正体はだいたい空気中の細かい埃と繊維くずなんだな。放置された道具が古びて見えるのは、微小な汚れが積もって光の反射が乱れるからで、中性洗剤で洗えば大半は落ちるんだな✨
物自体に記憶が染みつくわけじゃないから、手入れさえすれば十年前の状態と物理的にはほぼ同じなんだな。
物質としては同じでも、失われた十年の空白は埋まらないだろう。あたしが別の道具に乗り換えて、こいつを放り出していたという事実の重さは消せないよ。因果の巡りから弾き出された道具に、申し訳なさすら覚えるね。
因果から弾き出されたんじゃなくて、予備部品として棚卸しされてただけなんだな。道具を複数持っておくのは作業の中断を防ぐための基本設計なんだな💡
もし本当にその振り子を使いたいなら、今使ってるやつと交互に日替わりで使えばいいんだな。そうすれば摩耗も分散されて、両方とも長持ちするんだな。
日替わりで占いの道具を変える占い師がどこにいるんだい。道具ってのは手になじませて、自分の一部のようになるまで使い倒すからこそ意味があるんだよ。
でも、特定の一個に依存しすぎると、落として壊したり無くしたりした時に作業効率がゼロになるんだな。同じ規格の予備を常に二つは手元に置いておくのが、道具を扱う現場の鉄則なんだな⚡
鉄則ねぇ。ずいぶんと即物的な割り切り方をするじゃないか。あたしが柄にもなく感傷に浸ってたのが馬鹿らしくなってきたよ。
道具に気持ちを乗せすぎると、壊れた時に修理じゃなくて落ち込む方にエネルギーを使っちゃうからな。動かなくなったら直す、錆びたら磨く、それだけの話なんだな。
確かにその通りだ。冷たくなった真鍮を眺めてため息をついたところで、鎖の曇りが取れるわけじゃないからね。自分の手で放置しておいて感傷に逃げるのは、道具に対する誠意じゃなかったよ。
そうなんだな。道具は使って点検して油を差すのが一番の誠意なんだな🔧
よし、研磨用の布と油を出しな。さっき言った通り、ピカピカに磨き上げてやるよ。因果がどうのなんて管を巻く前に、まずは手入れだ。
研磨剤なら工房に業務用のやつがあるから持ってくるんだな。ついでにわたしのドライバーセットも錆び止め塗っておきたいんだな💡
あんたの道具も錆びてたのかい。人のこと現実的に諭しておいて、自分の手元がおろそかになってるんじゃないだろうね。
作業台の上に放置してたらお茶をこぼして、そのまま拭くのを忘れてただけなんだな。すぐ落ちるレベルなんだな!
やれやれ、掃除と片付けが苦手なのは相変わらずだね。ほら、まとめて持ってきな。あたしが両方磨いてやるよ。